介護実話 第1話 ーー介護を受けられる方のホンネーー
「私は(介護を)望んでやってもらってるんじゃない!」
先日、仕事先の施設で利用者様にこのようなお話を頂きました。介護を仕事としてする方も、受ける方にとっても悲しいお言葉でした。
なぜ利用者様にこのような事を言わせることになったのか、私が実際にお聞きした事と私自身の考えを話していきます。
1.なぜそのような事をおっしゃられたのか?
私が働く施設では、交代勤務で職員が24時間常駐している施設になります。出勤後は前のシフトの職員から引き継ぎを受けた後、交代します。交代後は基本的に私一人で利用者様の対応を行う事になります。
ここで私自身の仕事に対する姿勢ですが、過去に自身で商売をしていた経緯もあり、利用者様は大事なお客様という視点でサービスを提供するように心掛けています。というのも、介護業界にきて驚いた事は「やってやってる感」が結構見られるという事です。どういう事かと言いますと、トイレに連れて行って「やってる」とか、食事を食べさせて「やってる」とか、言葉では言っていませんがそういった光景や雰囲気を見たり感じたりする事があります。そういう気持ちで介助をしていると、恐らくその気持ちは利用者様に伝わっていると私は感じています。
話は戻りますが、勤務を開始してしばらくしてからある利用者様をトイレへ誘導する時にいつものようにお話しをしながら誘導していました。この利用者様はとある病気を患っており、体が上手く動かない時があり、そういう時は時間を掛けて介助を行う必要があります。その日もあまり調子が良くなく、体が動かなくなってしまいました。
その時に私からは
「ゆっくりでいいですよ」
「ご自身のタイミングで行きましょう」
とあまり慌てさせないように声掛けしながら誘導していました。そんな事を言いながら介助していると、利用者様から
「そういう風に言ってくれる人いないよ」
「みんな分かってくれない」
という風におっしゃりました。
以前体が上手く動かない時にある介護職員からこんな事を言われたそうです。
「早く!」
「何でやらないの!?」
「わざとやってるの!?」
などと言った暴言を言われたことがあるそうです。
その時、利用者様は思ったそうです。
「私は(介護を)望んでやってもらってるんじゃない!」
その言葉に私もハッとさせられました。
私自身はそういう暴言を言った事はありませんが、なぜか自分に向けて言われたような気がしてなりませんでした。
2.なぜその言葉にハッとしたのか?
前段にも述べたように、私自身お客様と向き合う時は未熟ではありますが接遇や言葉遣いにも気を付けるように心掛けています。それでもお客様と接していない時や仕事に追われて忙しい時、介助に手間や時間がかかる方の対応が多い時など煩わしく思った事があるのも事実です。
それをただお客様の前では見せないようにしていただけで、根柢では暴言を言った職員とあまり変わらないのかもしれません。
3.私自身が変わった事
利用者様から「望んでない」という言葉を聞いてから私の介護への姿勢が変わったように思えます。どう変わったと言いますと、ホスピタリティを大事にしたいという気持ちがより強くなりました。つまりはお客様主体のサービス精神をより目指していきたいと思えるようになりました。
それまでは少し事務的な感覚で行ってきた「作業」的な感覚が少しあったように思えます。例えば、この時間は日勤の仕事、これは事務の人の仕事、だから私は関係ないしやらないといった事が強かった気がします。
ですが、お客様主体で見た時にそれがお客様へのサービスに繋がるのであれば前向きに取り組んでいきたいと思うようになりました。
考えを変えて仕事をしてみると、以前は「何で自分ばっかこんなに仕事が多いんだ」とか「別に自分がやらなくても誰かがやってくれるし」、「やっても給料増えないし」みたいな意識が低い考えで苦痛に感じていたことが、今では苦痛に感じる事もなく当たり前に出来るようになりました。これは私が仕事をする時に感じていた苦痛を大きく減らす結果になりました。
不思議なものですよね。ほとんどの人がお金や自分の為に仕事しているはずなのに、損したくないとか自分だけ楽したいとかそういう事の為だけで仕事をしようとするとそれが苦痛になってしまうなんて皮肉ですよね。
4.サービスの質が低い仕事を生んでしまう原因
序段でもお話しましたが、介護業界で質の低いサービスが見られる原因を私なりに追求してみました。私の経験上、サービスが低い現場は次の6つの項目が際立っているように感じます。
- マネジメント不足
- 教育不足
- 放置(見て見ぬふり)
- 事なかれ主義
- 人材不足
- 年功者優遇
1.マネジメント不足
現場を運営には一番重要な部分で、その現場をコントロールするための大事な機能が不足している事が多いです。これはどういう事を言っているのかというと、主に以下のような事が挙げられます。
- 利用者様の情報が更新されていない・・・利用者様は日々状態が変わる事があります。今日は良くても明日は違うなどそういう情報が更新されておらず知ってる人しか知らないことが多いです。
- ケアの方法が分からない・・・やった事がある人、慣れている人だけが情報を持っている。
- 口頭だけの連絡や指示・・・情報が残らず混乱の原因です。
- 対応がモグラたたき・・・その場限りの対策の為、同じ事故を繰り返す。
- 人のせい・・・何でも人のせいにし、マネジメントの欠陥に気づいていない。
- 無意味な記録・・・現場で取った記録は放置され一定時間後シュレッダー行き。
2.教育不足
これはほとんどの現場で言える事です。OJTという名ばかりの教育が蔓延っています。これはなぜ名ばかりというと、人にものを教えるのって実は技術が要るんです。みなさんも馴染みのある学校の先生で例えます。皆さんはほとんどの人が足し算と引き算ができると思いますが、では今から足し算と引き算を知らない小学生に教えて下さいって言われたらどうですか?
計算ができるように教える事ができますか?
どうやって理解できたか確認しますか?
どのように教えますか?
どのくらいの時間を掛けて教えますか?
どういう環境で教えますか?
器用な方や教える事に長けた方ならできるかもしれませんが、なかなかそういった方は少数なのではないでしょうか。
これは現場でも同じ事が起きていて、「明日新人が来るから仕事教えといて」ぐらいの指示で仕事が回ってきます。そこにはテキストも何もなく、現場の先輩が好きなようにやってみるというのが現状です。教えた後の判断材料も人それぞれで基本的は「作業」的な事をメインに教えられる事が多いです。そのため、教育が行き届いているはずもなく、何かしらのトラブルが起きたりする事が多いです。また「作業」的な部分しか教育しない為、ケアや介助を作業的に扱う人もいます。全てではありませんが教育をする事で防げるトラブルは思ったよりたくさんある私は思います。
3.放置
これは色々な事象において、何かトラブルが起きるまで放置する事を指しています。どういった事を指しているかと言いますと...
- ヒヤリハット案件・・・案件山積みでも対策せず
- 利用者様の体調不良・・・とりあえず様子をみるだけ
- マネジメントの欠陥・・・会社のせいにする
- 教育不足・・・悪いと分かっていても改善しない
- ムリ難題・・・押し付けるだけでフォローしない
- ハラスメント問題・・・職員間や職員と利用者様間
- 虐待疑い・・・証拠がないと動かない
こういった事象を放置つまり見て見ぬふりをすると、サービスの質を低下させるだけではなく事故やトラブルに繋がります。その結果が施設や会社の運営にも支障をきたす可能性も出てくるでしょう。
4.事なかれ主義
これは事故やトラブルを反省することなく、その場限りにして安堵してしまう事です。明らかにサービスの質が低下した事で生じた内容であっても大事にならなかったと安堵し、なかった事にしてしまうような考え方です。
実際にあった話では、ある利用者様とトラブルになりましたが、ご家族様の意向で穏便に済んだ事で何もなかった事とされていました。職員間では施設側も至らない事があったのは事実であったにもかかわらず、結果良ければ良しとされてしまいました。しかもその原因はずっと対策されずに放置されっぱなしでした。
5.人材不足
他の業界でもおなじみですが、介護業界も常に人材不足です。というのもあまり人材が定着していかないというのが現実です。(現場を5か所以上変えている私が言うのも変ですが...)
基本的にどういう人の流れが起きているのか、一例で示したいと思います。
<ある施設の約2年間の人の流れ>
職員人数 増減
0か月 9名 パート +1名(筆者)
1か月 8名 パート -1名
4か月 9名 派遣 +1名
12か月 8名 派遣 -1名
14か月 7名 社員 -2名 派遣 +1名
18か月 8名 社員 +1名
21か月 7名 パート -1名(筆者)
ある現場一つの実例を私の記憶を基に挙げてみました。これだけ見ても結果2名減ってますよね。だからと言って仕事が減ったわけじゃないですよ?むしろ増えていった気がしています。仕事が増えた理由は人材不足でサービスが低下したため、人材ではなくサービスを上げるための仕事を増やしていったからです。ここでは言えませんがかなり無理なシフトで一時期稼働していました。
6.年功者優遇
これは現場によります。がしかしこのような現場に入ると新人の方は肩身の狭い思いをする可能性が高いでしょう。
実際どういう事があったのかご紹介します。
- 汚物の処理を全て丸投げ(新人が出勤する時間に合わせて極限までおむつを交換しないなど)
- 介護職員がやってはいけない医療行為をやらせる
- 自分がいかに楽をするかを常に考え行動している
- 新人の意見を潰す(「ここはそういう所じゃないから」など古参にしか分からない常識で否定する)
- ハラスメント
- 自分への行いは言い訳をする
- 上司も何も言えない(その方に止められると困るのだそう...)
これは私自身のみが経験した事実です。あるところにはある光景だと思いますが、なかなかインパクトありますね。他の方はどうだったかは聞いていませんが、数ヶ月で辞めていかれる方がほとんどだった為(私も含めて)かなりしんどかったのだと思います。
権力を得ると私欲に走りたくなるものなんでしょうかねぇ?
5.まとめ
今回は実際に利用者様から言われて気づかされ事が多かった為、このような記事を書きました。ホンネを面と向かって言ってもらえるというのは、これほどありがたい事なのだと改めて認識しました。今までクレーム対応も行った事もありますが、あまりお客様や利用者様の本心を聞き取れていなかったのだと思います。今回このようにホンネで伝えて頂いた利用者様にはただただ感謝です。
これからは今までよりも前向きに利用者様への介護を行っていきたいと思えました。