ちょこ。ころんの介護備忘録

介護士の出来事を記録しています。

介護実話 第6話 ーー介護現場における誤嚥事故についてーー

 先月11月に国内の介護施設にて、90代男性の誤嚥事故がありました。内容としては、食事に提供したゼリーをのどに詰まらせ窒息死したという事故です。この件に関して裁判にて介護施設側への賠償請求が行われたという事でした。

 

president.jp

 

 まずは、お亡くなりになられた方へのご冥福をお祈り申し上げます。

 

 その時の詳しい状況等は詳しく見えていませんが、ここからは私が誤嚥に関して現場で感じている事や起きている事をお伝えしていきます。

 

 

1.食事の形態

 介護施設では、利用される方の状態によって、食事の形態を変えています。

 【常食】 

 しっかり噛むことができ、嚥下(=飲み込む事)も問題ない方は常食と呼ばれ普段皆さんが食べているような通常の食事と同じものです。例えば、豚肉の生姜焼きですとか魚のムニエル、弾力の強いイカもメニューとしてあります。

 

 【一口大】

 歯で噛み千切る事が困難な方や認知機能の低下により、食品を丸のみする可能性がある場合に選択することがあります。メニューは常食の中で、繊維の強い物や弾力の強い物、サイズが大きい物を2センチ程度のサイズに切って提供します。

 

 【きざみ食】

 顎の筋力低下、歯の欠損等でしっかりかむ事が困難な方へはきざみ食を選択する事があります。メニューは常食を細かく刻んだものが多いです。

 

 【やわらか食】

 きざみ食よりも食べやすく、舌で潰せるくらいのやわらかさです。こちらも顎の筋力低下や歯の欠損で物を噛むことができない場合に選択する事があります。やわらか食の方がきざみ食よりも食べやすい事が多いです。ですが概ね1食当りの金額が多い事がほとんどです。

 

 【トロミ食】

 特に嚥下機能の低下した方がむせ込みにくく飲み込みやすいよう、きざみ食の上にトロミが付いた餡を掛けたもので、混ぜて提供します。

 

 【ミキサー食】

 咀嚼と嚥下機能が更に低下した方へ提供します。ミキサー食は嚥下機能より咀嚼機能が低下した方へ選択する場合があります。食事事態はサラッとした水分多めのものが多いと思われます。多少の粒感はあります。

 

 【ムース食】

 咀嚼と嚥下機能が更に低下した方へ提供します。ムース食はミキサー食よりもねっとりした食感でむせこみが多い方や誤嚥の可能性が高い方へ選択する事が多いです。若干の粒感がある事があります。

 

 【ゼリー食】

 まさにゼリーです。粒感もほぼなく誤嚥の可能性が高い方へ選択する事が多いです。

 

 介護施設や医療施設ではもっと細かく分類されている場合がある事もありますが、私が経験した中では、上記のような分類がほとんどです。

 

 利用される方の中には、食事の形態が嫌で食事を摂られない方もいらっしゃいます。そういった方へは、声掛けを行ったり、介助を行ったりする必要が出てきます。

 

 そういった日々変わる状況を見守りながら対応するという事が食事時に必要となってきます。

 

2.食事の見守り

 介護施設では、食事の時に見守りを行うという業務があります。見守りというとただ見てるだけなの?と思うかもしれませんが実際にいくつかのポイントを押さえて見守りしています。

 <見守りで行うポイント>

 ・食事が進まない方への声掛け・・・純粋に食べたくないという方もいますが、いつ食べ始めたらいいのか分からない方もいらっしゃいます。

 ・食事中にトイレに行きたくなった方への対処(要介助者)

 ・箸やスプーンを落とした場合の対処(これ結構多いです。)

 ・お隣の方とおかずを交換しようとしている時の対処

 ・むせこんだ方への対処

 ・お茶や水分のおかわり

 ・異食への対処(髪の毛やおしぼり、テッシュなど)

 ・誤嚥されている方がいないかの確認、発見した場合の対処

 

 細かく言うともっとあるかと思いますが、ざっとまとめてもこのくらいはあります。これを利用者10人から20人分を職員1人で対応していきます。

 

 過去に常食の方がパンをのどに詰まらせたという事例がありました。この時は周りの利用者の方が職員へ知らせてくれたため、事無きを得ました。ですが、周りに知らせてくれるような人がいなかったら、もしかしてしまうかもしれません。

 

3.誤嚥に気づけるか

 果たして、私が今までいたような施設で誤嚥に気づき一命を取り留める事ができるのでしょうか?

 

 冒頭紹介した事故では、残念ながら窒息で亡くなられてしまわれたそうです。では窒息というのはどの位の時間で死に至るのか少し調べてみました。

 

www.gov-online.go.jp

 

 上記の引用は子供の場合ですが、5分後から意識消失、呼吸停止するとの事です。では、これを実際の現場に合わせて見てみた時に果たして5分以内に気づくことができるのかシミュレーションしてみたいと思います。

 

 まず、シミュレーションの状況は利用者20人を職員1人で食事の見守り、配膳、下膳、服薬、食事介助、その他介助を行ったとします。利用者の配置は東棟と西棟に分かれています。東棟は介護度が3から5の方、西棟は介護度が2以下の方とします。東棟と西棟は細い通路で繋がっています。

 職員は配膳が終わると同時に食事介助を東棟で行うものとします。今回誤嚥される方は西棟で常食、ADL自立の方とします。ではシミュレーションしていきましょう。

 

<<<<<シミュレーション開始>>>>>>>

 

 配膳してから5分後に西棟の利用者がパンをのどに詰まらせたとします。

 

 その時職員は東棟で食事介助と服薬介助、下膳をしています。

 

 数分後に西棟の周りの方が気が付いて大声で職員を呼びます。

 

 職員はその時、トイレ内で介助を行っています。

 

 トイレ介助が終わりようやく声に気づきます。

 

 西棟へ駆け付けて詰まらせたものを吐き出すよう対処します。

 

<<<<<シミュレーション終了>>>>>>>

 

 どうでしょうか。これ5分以内に気づける可能性ってどのくらいでしょうか?

 

 私の見解ですが、このケースの場合5分以内はほぼ不可能だと考えています。またこのシミュレーションは極端な例だと思うかもしれませんが、実はこういった状況は誤嚥を除いてはかなりの頻度で起きています。よく起きている状況の中に誤嚥事故を組み込むとこういう状況になります。

 

4.誤嚥事故について私が思う事

 今回の事故のニュースを受けて私が考える事を自分勝手に書いてきました。聞こえによっては「現場は大変だから仕方ない」とか「今の介護サービスでは難しいからあきらめた方が良い」というような印象を受けてしまっても仕方ないかもしれません。

 

 ですが、施設側や職員はほとんどの場合、当然ながら利用者の方を殺めてしまおうというような気持ちはありません。(残念ながら稀に殺意が湧いてしまった方が事件になってしまったりもしますが...)

 基本的には、利用者の方に合わせてどうしたら良いか考えたり、ご本人と相談しながら前向きに取り組んでいます。

 

 ただ、前段で挙げた通り、職員1人で利用者の方20人を対応する事は多いです。単純に人を投入すれば...と思われるでしょうが、残念ながら介護業界も多分に漏れず人員が不足しています。

 

 ここからは私の推測ですが、人は足りないが施設は運用せざるを得ず、どうしても万が一不測の事態が起きた時は、賠償するというスタンスにならざるを得ないのではないでしょうか?

 

 誤嚥事故を無くすという事は不可能だと思いますが、こういうテーマを現場で周知していくという事も大事なのではないでしょうか?人が足りないという課題はありますが、だから諦めるのではなく、ではどうするかという事が重要なのだと思います。